48歳のお嬢様
屋敷に戻ってお風呂から上がると、和樹が就寝前のレモネードを作ってくれていた。

「ありがとう。今日は朝から晩まで疲れたでしょう?
ゆっくりお風呂で癒されてね?」


「私は、お嬢様のお顔を見てお声を聞けば、
すぐに癒されますので、疲れ知らずでございます。
でも入浴は致します。
ケダモノが人間に戻るのには入浴が一番です。
汚れを落として一日を終えなければなりませんからね」


「タクシーの中でも言ったけれどね、和樹はケダモノなんかじゃないわ」


さっきのようにまた頬を撫でながら、


「私には、お嬢様の前でケダモノになる勇気はございません。
ですが、先程の消毒はしなければ。私の気が済みません」




和樹は、撫でていた頬にゆっくりキスをして囁いた。

「雪恵お嬢様に触れることを許されているのは、花村和樹ただひとりだということを、生涯お忘れ無き様に…。
おやすみなさいませ」




「………えぇ…。えぇそうよね、和樹。
おやすみなさい」


ようやくそう答えることができたのは、ぼーっとしているうちに和樹が浴室へ行ってしまった後だった。


だって、えぇ、そうよね。
エスコートされたり着替えを手伝ってもらったりヘアスタイルを作ってもらったり…。
男性では執事の和樹にしか私の体は触らせないもの。

ここまでお互いに独身で来たなら、もう一生和樹だけだわ。


当たり前のことを言われただけよ。

それなのに、なぜこんなに胸が苦しいのかしら…?


とても自然な感じだったから忘れていたけれど、
和樹におやすみのキスをされたのは、初めてだったわね……。


ベッドに入った私は、締め付けられる胸を暖かい気持ちで包みながらウトウトしているうち、いつのまにか眠ってしまっていた。





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