48歳のお嬢様
和室に用意された夕食は、和食寄りの和洋折衷で、寒い季節なのでお鍋が嬉しかった。


お鍋の火が消えかかってきたころ、和樹が静かに話し出した。


「私は、雪恵お嬢様がお生まれになった年には既に、執事として生涯お仕えする事が決まっておりましたが、
実は先代と父の間で、もうひとつの約束事が取り決められていたのでございます。

私がそれを知ったのは、先代がお亡くなりになった翌年。
一周忌の時に、父に聞かされたのでございます」


中等科に上がってから雪恵に執事として仕え、適齢期を過ぎてもお互いに相手がいなければ、和樹を北條路の婿にするという約束の話を聞かされた。

そろそろ二人に話そうとしていた矢先の飛行機事故だった、と。


「私達は、お嬢様と執事の関係には変わりございませんが、
親の決めた許嫁の関係、ということにもなっていたのでございます。

私はお嬢様をお慕いしておりましたので、先代の生前のお気持ちを大変ありがたく嬉しく承りました。

しかしそう聞かされても、当時お慕いしているのは私の方だけと判断致しまして、
私からお伝えすることでお嬢様のお心を惑わせてはいけないと思ってしまったのでございます。

それまで築いて参りました、お嬢様と執事の良好な関係が崩れてしまうのを一番怖れておりました。

それが……間違いであったことに、遅ればせながら昨日今日になって気付いたのでございます。

雪恵お嬢様には、適齢期に私の想いをお伝えして、多少強引でも夫婦になって家族を増やして幸せになって頂くべきでございましたのに…。

これからは今までの分の想いも、残りの生涯で余さずお伝えして参ります。
気持ちの弱かった私をお許しください」



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