48歳のお嬢様
手の掛かる私の世話に忙しかった為に、ずっと独身を貫いて来てしまった。
年を取ったけれど、容姿端麗、頭脳明晰、文武両道の完璧な人なのに。
いや本当に。
高校生の頃は彼女がいたらしいけれど、大学に入って執事になってしばらくして、別れてしまったらしい。
絶対私のせいなのだ。
中学生の私は、跳ねっ返りの我がまま娘を絵に描いた様な世間知らずのお嬢様だったから……。
まあ、35年経っても基本あまり変わっていないかも。
それでも責任は感じていて、
15年ほど前までは、時々お見合い話を持って来てみた。
でも、何でもそつなくこなすスーパーマンの眼鏡に叶う女性はそう居ないらしく、
私がどんなに素敵な人だと思っても、彼は会うことすらしなかった。
「お嬢様がお一人でいらっしゃるのに私が所帯を持つ訳には参りません」
……って。
いえいえ、参るわよ。全然構わなくってよ?
でも、やっぱり寂しいわね…。
私がいつまでも片付か無いのが悪いのだった。
『お見合いは嫌』と言って、縁談のお話を全てお断りしてきたのに、
肝心の『恋愛』に縁が無かったんですもの、仕方がないわ。
北條路学園は幼稚舎から大学まであり、男女共学だけれど、
中等科からボディーガードのように和樹が付いてくれていて、卒業後は就職をせずに花嫁修行をさせられた私に、
男性とお付き合いする機会などあるわけもなく…。
何のための修行だったのかしら?
あ、やらないだけで家事一般、出来ますのよ?一応は…。
やらなきゃ意味がないけど。
当主を継いだら少しは人間関係が広がったけれど、
『汚ならしい虫が付いては大変でございます』
と、和樹が目を光らせてくれていたので、お誘いを受けることは、そう無かったし、
あっても執事同伴だった。
気持ち悪いと思われるから人には言わないけれど、
そんなこんなで私は男性経験ゼロのアラフィフ女。
この恥ずかしい事実を知っているのは、私のことを完全掌握している花村和樹ただ一人……。