48歳のお嬢様
幸せな男です
結婚式当日……。

鏡の前の椅子に座って、いつもの私とはずいぶん違う姿を眺めていた。

真っ白な綿帽子を被ったお嫁さんがいる。

よく化けたわね。ブライダルメイクって素晴らしいわ。
シワもたるみも隠してくれるの。
『化粧品と技術を教えてくださらない?』と言うと
『企業秘密ですから』と断られてしまった。
それはそうよね……。

鏡の中の自分と見つめあっていると、和樹が入ってきた。


「雪恵お嬢様……今日は、いつにも増してお綺麗でございます。
やはり花嫁衣装をお召しになられてよかったでございましょう?」


「ありがとう。和樹も凛々しくて素敵だわ。
少しは可愛らしい花嫁さんに見えて?
メイクさんの技術を伝授して頂こうと思ったら、断られてしまったわ」


「お嬢様は、お化粧で色々ゴタゴタなさらなくても、正真正銘の私の可愛らしい花嫁さんでございます。
綿帽子は奥ゆかしいですね。
畏れ多くも、私の色に染めても構わないと錯覚しそうにございます」


「そういう意味よね、白無垢って。
でも、私はもう和樹の色に染まっているわよね、35年かけて。ふふふ」


介添人さんが来てくれて、神前形式の略式で滞りなく式が行われた。

お式の間じゅう、直樹さんのすすり泣く声が聞こえていて、
あちこちでみなさん笑いを噛み殺していたのは、
ご愛敬と言うことで……。







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