48歳のお嬢様
屋敷に戻ったら気が抜けてしまって、お風呂で寝てしまいそうになった。

和樹が気付いて入って来てくれたので、溺れずに済んだけれど。




「雪恵様、夫婦別室は良くありません。
籍を入れましたから今夜からこちらで一緒に休みましょう。
おなじ屋敷にいて通い婚の様なことをする必要はもうありません」


そう。ここ何ヵ月か、和樹とそうなってから、和樹はまるで平安時代の貴族の様に、私の寝室に通って深夜自室に戻っていたのだ。

『けじめ』なんだとか……。

でも、もうそんなことしなくていい。



ベッドに入ってから、気にしていたことを話してみた。


「ねえ和樹、私が奥さんになっても、奥さんらしいことは全部和樹がしてくれるじゃない?
それでいいのかしら…」


「雪恵様、私は家政婦と結婚したのではございません。
北條路家当主であり、北條路学園理事長であり、執事の私の主人である北條路雪恵様と結婚したのでございます。
私達には私達の夫婦の形があってもよろしいのではございませんか?

他のご夫婦が羨ましいのであれば、それが気にならないくらいに私が雪恵様を愛して差し上げます。
他と同じ様にする必要はございません」


私の薬指の真新しい指輪に口付けてから、いつもの優しい丁寧なキスをくれた。


「そうね、和樹と私の形でいいのね。
ごめんなさいね。ありがとう。愛してるわ和樹」


「私は幸せな男です。愛してる……雪恵」


「和樹……和樹…嬉しいわ。私、すごく嬉しい」


愛する人に初めて呼び捨てにされた結婚式の夜、私は泣きながら愛された。





恋愛経験ゼロの48歳のお嬢様は、30年越しに、執事の想いと自分の初恋に気が付いた。

ずいぶん遅咲きの二人だけれど、
これから残りの人生を、長年連れ添って絆の深まった熟年夫婦のように、幸せに生きていくのだろう。

二人だけの愛の形を描きながら…。








【完】
< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop