48歳のお嬢様
理事長室に戻ると、間もなく花村直樹が来訪した。


「お久しぶりです、直樹さん。
お元気そうでなによりです。
先代の23回忌でお会いして以来ですわね。
その時は奥さまもご一緒で。お幸せそうにお見受けしました」

直樹さんは確か80歳を越えている。夫婦揃って健在だ。
顔色も良く、足腰も丈夫そう。


「お陰さまで、なんとか二人揃って生き永らえております。
雪恵様も、いつまでもお綺麗で若々しくいらっしゃって…。
何故あなた様のような器量良しが独身のままなのでしょう…世の男性どもはどこに目をつけているのやら…嘆かわしい」


この歳まで独り身だと嘆かわしいですか、やっぱり…。申し訳ないです。


「お恥ずかしい限りですわ。
我がままで世間知らずな子供のまま、大人になってしまいましたもので。
両親が見たら泣きますわね。
何でも和樹に任せっきりで、彼も婚期を逃してしまいましたし…私のせいですわね。
申し訳ございません」


「あ、いえいえ、和樹には和樹の気持ちがございますゆえ、お気になさらず。
本日はその辺りの雪恵様のお話もございました」


「その辺りの私の話…?
と言うことは今さら縁談でしょうか?
ふふ……直樹さん、もう私は結婚など致しませんわ。
跡目も産めない歳ですもの、北條路にとってもお相手側にとっても、なんの意味もございませんでしょう?」


「父さん、今日はお嬢様にはお聞かせしないと言っていたじゃないですか。
ご挨拶が済んだのなら、別室へ…」


「あら、和樹。
私に知られてはいけないお話なの?私にも関係のありそうな事なのに?
35年も一緒に居るのに隠し事があるなんて寂しいわ…」


「申し訳ございません雪恵様。
執事の和樹がお聞かせしたくないと申しておりますのに、ここは私が出しゃばる所ではございませんでした。
決して悪いお話ではございませんので、お気に病むことの無き様に…」


「そう…なのですか…?
和樹、話せるようになったら聞かせてね?」


「……はい、かしこまりました、お嬢様。
それでは、三時にお茶をお持ちするまで少々お側を離れます」


「ええ、ちっとも構わなくてよ?
私は高等科の視察と言うことで……なにか面白そうな授業を観ているわ。
親子水入らずでお話していらっしゃいな」


「また、授業に入り込んで楽しまれて邪魔に成らぬようお気をつけください。
では、お言葉に甘えて…失礼致します」










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