48歳のお嬢様
「なぁ、和樹。わしは先代と約束したのだ。
先代も、適齢期を過ぎる頃に、雪恵様にちゃんとお話するおつもりだったのだ。
急にお亡くなりになってしまわれたので…。
わしも、その後お話する機会を逃してしまっただけだ。
お前の雪恵様に対する想いは昔から気付いていたぞ?先代もな。
やはり話を進める気は無いのか?
わしももう長くはないだろうから、行く末が心配なのだよ」


「先代と父さんの約束でしょう?
生前、俺は何も聞かされていないのですから一生このままでも構いませんよ。
お嬢様のお気持ちが第一です」


「ご自分のお気持ちに気付いていらっしゃらないだけなのだと思うのだが……。
お前が動かなければ進まんぞ?」


「無理に進めては、お嬢様が消化不良を起こしてしまいます」


「まあ、お前の何がなんでもお嬢様第一というのは執事としては良い姿勢ではあるのだ。
心の片隅に置いておいてくれればいいさ」




雪恵の父と直樹の約束は、雪恵が生まれた時に交わされたものだった。


代々、北條路家に執事を送り出してきた花村家なので、直樹の息子は当然、先代の子息か令嬢の執事にするつもりだった。

雪恵が生まれてその話をした時、先代は、
和樹を雪恵の執事にという思いはもちろんあるが、
将来、どこか知らない家の男を婿にしたり、どこかに嫁がせるくらいなら、
直樹の息子を北條路の婿にしたい、と言ったのだった。

直樹は、畏れ多い事だと一旦は辞退したものの、
中等科に上がってから雪恵に仕えて貰い、適齢期を過ぎてもお互いに相手がいないようであればその時に、というのはどうか?と問われ、
『それまでにはいくらなんでも良縁のひとつや二つあるだろう』
と思って承諾したのだった。


表向きはお嬢様と執事には違いないが、
いわゆる、親の決めた許嫁の関係、ということになる。





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