尽くしたいと思うのは、
いつもなら散々からかって、わたしは怒りに燃えたりするのに。なのに今日は余計なことはなにも言わず、お疲れさまとでも言うように飴玉だけを残して。
こういうところ、気がつくところが、女性が途切れない理由なんだろうなぁ。
一袋全部じゃなくて、少しわけてもらったくらいの量。これだったらわたしも喜んで受け取ることができる。
それにわたしの好きないちごみるくのキャンディーだし。
思わずご機嫌になってふふっと声をもらす。
「楽しそうだな」
「わっ」
横を向けば、外回りから帰って来た浅田さんの姿。表情はいつもと変わらないはずなのに、少しだけ不思議そう。
彼は昨日から今日にかけて営業先を訪れていたから、わたしがばたばたしていたことは知らない。
「浅田さん、お疲れさまです」
「ん」
浅田さんはこくりと頷いて、わたしの様子を気にするのはやめたらしい。
「そういえば、明日、飲み会するらしいんだが。
水瀬と森下は行けるか?」
「私、今回は予定入ってます」
真由も話を聞いていたんだ。作業をしている気配を感じていたから、間髪入れずに返した返答にひっそりと驚く。
まぁ金曜日だし、真由は当然彼氏と会うよね。
「水瀬は?」
「えっと、大丈夫です」
彼氏と別れたばかりで、料理くらいしか趣味のないわたしは基本的に暇で。悲しいことに、いつでも急な予定に対応できる。
今回ももちろん参加ですね……。
「じゃあ幹事に伝えとく」
「今回の幹事って誰なんですか?」
「佐野」
佐野さんかぁ……。じゃあ多分、男性陣向けのお酒が出つつも、適度に綺麗な店を選んでくれてるだろう。
「小沢にも訊いておいてくれ」
「はーい」
ぺこりと頭をさげて自分の席に向かう浅田さんを見送る。
「明日は楽しんでおいで」
「うん、真由も彼氏さんによろしくね」
ちょうど明衣ちゃんが戻ってきたこともあり、会話は流れる。
卓に置いたままになっていたキャンディーを引き出しの中にしまって、わたしは笑顔で彼女からカフェオレを受け取った。