尽くしたいと思うのは、
「よし、じゃあ水瀬ちゃん帰ろう」
「……え?」
「みんな、俺たち帰るわ! お先ー!」
「え⁈ ちょっと加地さ、」
慌てて彼の名を呼ぶ。だけど、なにがなにやらわからないまま遅い! と文句を言われて思わず謝罪が口からこぼれた。
あれよあれよという間にわたしの鞄も手にした加地さんに連れられ、わたしは店を出ていた。
「あの、加地さん、わたし引っ張ってもらわなくても歩けます」
「うん」
気がつけば酔いは覚めていて、足取りはさっきよりしっかりしている。だから加地さんがわたしの手を引いて歩いているのは、酔っぱらいの誘導にはならない。
ならないのに。
指先に触れたぬくもりが心地いい。肌に吸いつくようで、手放したくないと、わたしはこの手にすがっているんだろう。
「さっきのみんな、ちょっとデリカシーがなかったですよね」
「うん」
「でも、加地さんの方がひどいです。
だめ男生産機って呼ぶの、いい加減やめて下さい。何回も言ってるのに……」
「うん」
だめだ、この人、今ちゃんと返事する気がない。珍しくわたしをからかうことはないけど、それでもまともな会話はできていない。
だけど今の空気は、優しい声は、嫌いじゃない。
いつもは誰よりひどい暴言を吐いてきて、わたしに対して容赦ない。何度やめて下さい! と怒っても改善する気配は全くないし、わたしは加地さんが苦手で……嫌いで。
女性関係は不純だし、可能な限り関わりたくない人だった。
なのに、ああ、ずるい。
掌にぎゅっと力を入れこめると、彼がわずかにびくりと震える。だけどすぐさま、柔らかく強く、握り返されて。傷ついた心に幸福感が染み渡った。
「加地さん」
「ん?」
「ありがとう、ございました」
「……うん」
こんなにも、どきどきさせて、……ずるい。