尽くしたいと思うのは、
袋を持ち直し、インターホンを鳴らす。だけど虚しく響くだけで、反応がないことに首を傾げた。
「手が離せないのかな……」
仕方がない、と鞄を漁る。
中から取り出したのは、この部屋の鍵。
よく掃除に来たり、今日みたいに仕事終わりに寄ってご飯を作っているから、合鍵を預かっていたんだ。
中にいるのに使うのははじめてだけど、手に馴染んだ銀色のそれを差しこむ。かちゃりと音がしたあと、扉を開けた。
玄関には、女性もののパンプスがあった。
黒く光るそれは、仕事用だと思う。わたしのものよりずっとヒールは細く高い。
どくん、と心臓が嫌な音を立てた。
まさか、ありえない、と首を横に振りながら、わたしは靴をそろえる。そして思わず気配を消し、そっと中に足を踏み入れた。
1DKの彼の部屋は玄関の先はダイニングとキッチンが広がっている。見慣れたその部屋は、一昨日掃除をした時から大差ないように感じた。
荷物をようやくおろすことができたのに落ち着くことはできず、肩には力が入ったままだ。
かさかさという私の袋の音がやむと、わずかに聞こえる声と物音。賢治の姿が見えないから、奥の寝室にいるんだろう。
はあっと大きく息を吐き出して、震える手で寝室の扉を、開けた。
「……けん、じ」
そこには、ベッドの上で身を起こした彼と、見知らぬ女性がいた。
ふたりとも、裸だった。
「え、……えー! くるみ⁈」
いつもと変わらない、気の抜けるような軽い声が足元に散らばった服へ、ふわりと落とされる。
わたし、水瀬 くるみ(みなせ くるみ)、しがないOL。
24年の人生のうち、5人目の彼氏の8度目の浮気現場に遭遇した。