尽くしたいと思うのは、
あのあと……飲み会から抜け出したあと。わたしと加地さんはどこかに寄ることもなく、まっすぐ家に帰ることになった。
そこで発覚したのはわたしと加地さんの方面が同じだったということ。わたしの方が会社に数駅分近いけど、同じ電車に乗ることができたんだ。
つまりちょうどわたしと賢治の家の間に彼の家があったってこと。
今まで徹底的に彼を避けていたわたしは帰りが同じになったことがない。加地さんは営業先から直帰することも少なくないし、わたしは残業したり彼氏の家に行っていたしね。
加地さんと同じ会社に勤めるようになって、2年と少し。衝撃の事実でした。
そんなわけで家までは申し訳ないから断ったけど、最寄り駅までは送ってもらった。
それに飲み会では一応庇ってくれたわけだし、お世話になってないとは言えないよ。
なにより、加地さんの言葉に触発されたみんなが土日の間に謝罪メールを何通も送ってくれてた。
上司たちの言葉だから否定することが難しかった明衣ちゃんや、メインで話題にあげていた男性社員なんかは、特に丁寧な内容だった。
言い方がひどかったよな。失礼だったと思う。ごめんね。
そんなふうに言われて、わたしは驚いたんだ。だってそれは、今までにないことだったから。
謝って欲しかったわけじゃないけど、心を配ってくれたことがとても嬉しかった。
それはやっぱり加地さんが理由だと思う。だから、
「受け取って下さい」
クッキーはさっくりと焼き上げた四角のもの。男性でも食べられるように甘さ控えめのコーヒーと抹茶にした。
「もう、なに?
水瀬ちゃんが俺に友好的だと変な感じ」
「うっ……」
ひ、否定できない……。
確かにずっと加地さんアレルギー、とでもいったふうに拒否反応を示していたわたしがこんなことをしてくるんだもんね。
「水瀬ちゃんの次の貢ぐ相手は俺?」
「ち、違います!」
やっぱり加地さんは加地さんだ。発言に遠慮がない。
別にこれは貢いでるわけじゃないし、ただのお礼。特別な想いがこもってるわけじゃないもの。
……そんなには。