尽くしたいと思うのは、
あれからすぐに盆に入り、家でゆっくりする数日を過ごした。そんな日々からいつもと変わらない生活に戻った今。わたしと加地さんの関係に亀裂が入ったかというと、……そんなことは全くなかった。
給湯室を出た瞬間から、いつもどおり。からかいがひどい、よく絡んでくる加地さん。前までわたしが嫌いで仕方がなかった彼のまま、毎日言葉を交わしていた。
あまりにも変化がないものだから、逆に違和感を感じてしまうほど。
だけど、気まずくならなかったことにほっとしているのも確かなんだ。
だってわたしは別に、彼と揉めたいわけじゃない。むしろ、もっと親しくなって彼を知りたいと思っているんだから。
そんな不真面目なことを考えていたせい。仕事もつまっていないことだし今日は定時で帰って、冷蔵庫の作り置きのストックを増やそうと思っていたのに、進みが悪かった。
そのうえ明日の会議に使う資料を綴じておいて欲しい、なんて予定外の仕事まで回されてしまった。
そうなるともちろん、残業。
唯一の救いは、残っているのがわたしと……加地さんのふたりきりだということ。
さっきまでは佐野さんもいたんだけど、やることを終えた彼女は帰って行った。加地さんが残っているのも、この前のショッピングモールの雑貨店との契約が決まったからその関係で急遽増えた作業のせい。
わたしとは違い、みんな自分の仕事での残業なんだ。
なんとか資料を作ることができて、印刷ボタンを押す。印刷機から吐き出された紙を取りに行く前に、デスクからあるものを出す。
それは、いちごみるくのキャンディー。────加地さんがくれたもの。
もったいなくて食べれずにいたそれを、頑張ったご褒美といったふうにいそいそと手にする。ぺり、と包装を開け、口に放りこんだ。
広がる優しい甘さが、疲れを取ってくれるよう。染み渡るそれにわたしはほう、と息を吐き出した。
「水瀬ちゃん」
学生の時とは違い、席替えなんて存在しない今。距離は今日も端と端。結構な距離感の中、声をかけられてぱっと顔をあげた。