尽くしたいと思うのは、
◇軽薄な同情
「よし」
定時を少し過ぎた頃、今日のノルマ分の仕事を終えてふう、と息を吐き出した。明日の準備も済ませて、あとは荷物をまとめるだけだ。
昨日頑張って資料を作った甲斐があり、会議はスムーズに進んだ。言うことなしで、なんの問題もない。
毎日こんなふうだったらいいのになぁと席を立った。
「くるみさん、あがりですか?」
「うん。明衣ちゃんはもうしばらくかかりそう?」
隣の席でパソコンに向き合っていた彼女からの言葉にこくりと頷き、わたしも質問を返すと沈んだ表情。今日はがっつり残業ですー、と言っている間も画面から目を離さない。
「手伝わなくて大丈夫?」
「はい! 今日は自分でなんとかします!」
くるみさんに迷惑かけてばかりいられませんから、と言う声色はしんどそうだけどこの前ほど追いつめられていない。
わたしは頼ってくれていいんだけど、とてもいい心がけだし。気を削がないようにしなきゃね。
明衣ちゃんの成長にうんうんと頷いていると、近くのホワイトボードに目がとまる。そこには社員の名前と予定が書かれているんだけど……。
加地さんの欄、引き寄せられるように見てしまうそこには『7時半帰社』と書かれていた。
定時を過ぎたその時間、普段なら直帰となっているはずなのに。わざわざ社に戻ってしなくちゃいけない仕事があるということだ。
昨日の作業が終わっていないのかな。
────昨日、加地さんの話を聞いて、彼を……好きだと思って。そのあとは少し話がしにくい空気になってしまった。
加地さんもあんな自分の内面を見せるつもりなんてなかったに違いない。わたしはとても嬉しかったけど、きっとうっかりしてたんだよね。
静かな事務室で資料を綴じ終わったわたしは、加地さんより一足先にオフィスをあとにした。
それから今日は外回りがつまっていたらしく、ほとんど顔をあわせていない。