尽くしたいと思うのは、
「加地さんは佐野さんが次の恋に進めるように協力したかったんです」
なんて、なんて不器用な人。慰め方を、支え方を間違えて、だけどとても懸命だった。
そんな彼の姿がまぶたに浮かび、隣の彼と重なる。
「ってる……」
「佐野ちゃん……?」
「わかってるわよ、そんなこと!」
空気が震えるような、悲痛な声。
彼女の瞳には涙がたまっている。おとしてしまわないよう、佐野さんは必死で目を見開いた。
「同情で、よくても親愛程度で、彼にそんな気はないと知っていた。だけど、それでも、あたしは好きになってしまった……!」
ああ……そうだよね。わたしよりずっと長い間そばにいて、彼を想っていたんだもの。
彼女もまた間違えていた、うまくできずにいた。大切にしたいはずの恋を。
さっきまで鋭かったはずの彼の瞳が柔らかくなる。優しいトーンで佐野ちゃん、と名を呼ぶ。
彼女は加地さんから顔をそらして、そしてそっと見あげた。
「……ごめんね」
それが、加地さんの答えだった。
好きになれないと、恋人にはなれないと、そういう意味がこめられた謝罪だった。
それを耳にした佐野さんが右手を振りあげる。
振りおろされる瞬間を思って、わたしは息を呑んだ。加地さんは避けない。
「っ、」
その手がそっと、口づけるように優しく彼の頬に触れた。するりと撫でるように掌がおろされて、そのまま佐野さんはその場を立ち去る。
最後の最後でおちた、彼女の涙だけが残された。
しばしの沈黙ののち、加地さんが困ったようにわたしを見る。歪められた表情を見れなくて、そっと彼の背に腕を回し、抱き寄せた。
それはきゅっと弱い力で、振り払うことができるはずなのに、そうはしない。
「水瀬ちゃんは、ばかだね」
耳元におとされる言葉に、わたしはどうしてと問う。
「俺のことを優しいだなんて、ばかだ……」
わたしはそんなことないと、加地さんは確かに優しいと言いたかった。だけどそれはできなかった。
彼がわたしの肩に頭を預けたから。
涙は出ていなくとも、加地さんが傷つき苦しんでいることがわかる。弱った姿さえも愛おしくて、わたしの胸は切ない熱をはらんでいく。
かける言葉を持っていないわたしは、ただ彼の背のシャツを強くつかんだ。