尽くしたいと思うのは、
◇最初で最後
ひやりと冷たい感覚が素肌に触れる。なめらかなそれが心地よく、すり、と足を動かす。すると爪先にぬくもりが触れて、びくりと震えた。
ふわふわと曖昧な意識のまま、不思議に思っているとそのぬくもりがわたしの全身を包みこむ。息苦しさにそっと薄目を開けた。
閉じられた瞳に、長いまつげ。高い鼻。さらりとおちた柔らかそうな髪。この距離で見ても綺麗な肌。
……そう、〝この距離〟でも。
「っ⁉︎」
瞬時に頭が冷え、覚醒する。
そこには、加地さんの姿があった。
かろうじて声をこらえるも、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
自分のからだも加地さんのからだも横になっていて、布団に包まれている。恥ずかしさのあまり視線をおとしていけば、わずかにのぞく引き締まった裸が目についた。
わたしの格好も下着にキャミしか着ていない、なんともあられのない格好。なにがなにやら、まったくわからない。
「ん……」
耳に入りこむ彼の声に肩を揺らすと、目の前でまぶたがゆっくりとあがっていく。澄んだ瞳にうつった自分と目があう。
声も出せずにいると、加地さんはふっと口元を緩めて、ふにゃりと幼い笑みを浮かべた。
「おはよ」
「……おはよう、ございます」
反射的に言葉を返すと、彼は嬉しそうにしてわたしの髪をそっとすく。そのまま後頭部に回した手を自分の胸に引き寄せて、わたしは加地さんの胸に顔を寄せることになった。
鎖骨のくぼみにおちた影がなんとも色っぽく、抵抗できない。
彼の肌に触れていることに焦りながら、なんとか胸を押して声をあげる。
「か、加地さん!」
唇が触れそうになる距離で見あげると、再び閉じかけていた目がようやくぱちりと開く。
「……あれ、水瀬ちゃん? 本物?」
「本物ですよ」
も、もしかして加地さんもこの状況に陥った経緯を覚えていないのかな……。
そんなふうに焦っていると、わたしから手を離した彼が自身の髪をかき混ぜる。「あぁ、そっか」という言葉に記憶がはっきりしてきたんだと安心しつつも、真意がわからず心臓が騒ぐ。