尽くしたいと思うのは、
◇好意の振りわけ
背を伸ばし、隣を歩く彼をちらりと見上げる。
かっちりとしたシャツとパンツはスーツの時ほど堅苦しくなく、少し柔らかい印象。紺のカーディガンが似合っていて、とても格好いい。
こんな人の隣に並んでいるのがわたしだということに違和感を感じつつも、自然と見とれた。
「なに?」
不思議そうに視線をおとしてくる彼と目があわせられる。ぱちり、と重なったことに驚いて目を見開き、すぐさま顔をさげて首を横に振る。
「な、なんでもないです」
「そうか?」
今日は、約束の日曜日。
月曜日に真由と佐野さんと話をして、とりあえず浅田さんとは出かけてみることになり、そのあと会社に戻ってすぐデートを了承する返事をしたんだ。そして話はとんとん拍子に進み、あっという間に当日がきた。
ここまできたらキャンセルもできないし、そんな失礼なことするわけもなく。
加地さんのことを忘れられるように。わたしを心配してくれる人たちのためにも、少しでも前に進めるように。朝から気合を入れて準備をしてきたんだ。
待ち合わせの駅前では、約束の時間より10分も前に浅田さんの姿を見かけて。デートといえば相手は遅れてくるものだったから、はやくに会えたことに驚いて駆け寄ったところからはじまった。
エスコートは上手ではないんだけど、人とぶつからないように気にしてくれたり、歩く速度をわたしにあわせようとしてくれているのがわかる。さりげなくはできない、不器用な優しさを感じてどきどきした。
そしてそのまま、互いの緊張が伝わる沈黙の中、映画館に着いた。薄暗いのに、不健全さのない空間に入りこむ。
まずはチケットの引き換えかな、と考えてこくりとひとりでに頷く。
「それじゃあ、浅田さん、わたしチケット交換してきますね」
「ん?」
不思議そうな様子の彼を見て、はっとする。
「あ、それとも先に飲みものでも買ってきますか?」