尽くしたいと思うのは、
「軽いことばかりしているから知られていないが、本当のあいつは大きい愛の持ち主なんだ」
え? とわたしは目を丸くする。気まずさも忘れ、浅田さんに1歩近づく。
大きい愛の持ち主って、どういうことだろう。
「あいつの愛は底知れない。誰かを強く、深く、愛することのできる男なんだ」
「そうなんですね……」
「だから、加地は自分の愛を複数の人に振りわけないといけない」
誰かをそんなふうに愛することができるなんて、素敵だ。悪いことじゃない。そのはずなのに振りわけなくてはいけないなんて、どうしてなのかな。
わけがわからない様子のわたしを、浅田さんはちらりとも見ない。
「そうしないと、相手の女に言われてしまうから。────重い、と」
「っ、」
それは、わたしと同じだった。
好きだからこそ、する行動。好きだよと何度も言う、囁く、告げる、だけど。同じように応えてくれる人などいない。
拒絶するか、許容するか。同じだけの想いを返してくれる人はいない、その虚しさ。
それをあなたが、他でもないあなたが、知っていたなんて。
口元を押さえ、だけど浅田さんから目はそらさない。
唇を噛み締めて、泣いてしまいそうな、叫び出しそうな、駆け出してしまいそうな。そんなこみあげる衝動をこらえる。
いつか聞いた、彼の言葉を思い出した。
〝想い〟は〝重い〟んだよ。
それが今、心に深く染みて渡っていく。切なく胸が震える。
ああ、本当に、加地さんはそう思っていたんだ。そう思われたことがあったんだ。
「だからといって、軽い男になるなんてばかだとしか言いようがないことには変わりない。
だが、そんなあいつが幸せになることを俺は祈っているんだ」
そう、浅田さんは笑った。強張っていた力を抜いて、泣きそうにそっと、笑っていた。
その表情の意味を問おうとした瞬間、
「水瀬ちゃん!」
わたしの名前を呼ぶ、必死な彼の声を聞いた。