尽くしたいと思うのは、
ピロン、と間の抜けるようなLINEの通知音。驚きからはっとしたあと、脱力して息を吐き出した。自分のスマホにのろのろと手を伸ばす。
相手はデートの最中のはずの、浅田だった。
それを確認した瞬間、冷水をかぶせられたみたいに心臓がひやりとしたような感覚になる。
もしもこれが、付き合うことになったという報告だったらどうしよう。
浮かんだその考えの女々しさが自分でも情けない。そしてなによりも、まず最初にいやだ、と思ってしまうことに悔しいほど納得していた。
それでもなんとか画面をタップして、内容を読む。
『〇〇駅付近、カフェ・とまりぎ』
暗号のようなそれの意味がわからず、首を傾げる。思わずは? と困惑した声をおとすと、さらにもうひとつ連絡がくる。
『来るなら来い』
「っ、」
きっと今、ふたりはその店にいるんだろう。映画を終えて、感想を言いあって、感情を共有して、……そして浅田は告白するつもりなんだ。
水瀬ちゃんの好きなところを告げて、大切にすると約束する。硬派なあいつの言葉には説得力があるし、実際大切にするに違いない。
それで、水瀬ちゃんがその告白を受けて……笑ったら?
「……いやだ」
いつも笑っていて欲しい。だけど、浅田の隣で笑う彼女を見たくない。
俺の隣で、笑って欲しい。
「っ、くそ!」
最低限の準備だけして、俺は自分の部屋を飛び出した。
この年になってこんなふうに全力で走ることがあるとは思わなかった。周りの通行人が駆けていく俺を不思議そうに見ていることがわかるけど、だけどそんなこと大したことじゃない。
息を切らしながらも足をとめず、駅へと向かう。
こんなふうに女の子のために必死になるなんて、軽い俺じゃない。昔の重い俺みたい。
……それで、いいよ。もういい、俺も俺らしく、水瀬ちゃんと同じように自分のままで。
彼女を傷つけたのは、俺だ。だけど失いたくないんだ。
だから、浅田。俺の気持ちはひとつだよ。
『加地さん』
怒りながら、いやそうな顔をしながら、真剣な表情をしながら、笑いながら。俺の名前を呼んでくれる水瀬ちゃんのことが。
本当はずっと────好きだったに決まってる。