尽くしたいと思うのは、




繋げられた掌があつい。指先に力の入っていないわたしと違い、彼の手はぎゅっとわたしのそれをしっかりと包みこんでいる。

それがとても嬉しくて、彼の名前を呼んだ。



「……加地さん」



わたしを見ることはない彼は、代わりに手を握り締める力を強めて応えた。

肌に吸いつくような感覚は、7月末の飲み会の帰り道を彷彿とさせる。あの日もこんなふうに加地さんはわたしの手を引いて、前を歩いていた。



あの時からわたしは加地さんが気になるようになって、彼の素敵なところやだめなところをたくさん見て、そして丸ごと愛おしいと思うようになったんだ。

あれからまだ2ヶ月も経っていないことに驚く。とても濃密な時間で、もうずいぶんと長いこと加地さんを想っていたような気がする。

だけど、たとえ時間は短くたって、この気持ちは本物だ。狂おしいほどに彼が好きなんだ。



「俺、さ。水瀬ちゃんに話がある」



吐息のようにそっとこぼされた声にぱっと彼を見あげる。正面を向いたままの彼の綺麗な横顔を視線でなぞった。



「それは、いい話ですか? それとも悪い話?」

「わからない。でも、それでも……俺は水瀬ちゃんに言いたいことがあるんだ」



聞いてくれないかな? とかすかに囁いた彼の声が聞こえ震えている。緊張しているのか、強張っている頬に手を伸ばしたくなるのをぐっとこらえた。



わざわざ浅田さんのところから連れ出してまで彼がしたい話。どんな話かと訊いたけど、本当はそんなのどうだっていい。

彼の言葉なら、どんなに辛いことだってわたしに投げかけられるものなら、構わない。すべて欲しい、涙しても受け止めたい。



だから、



「はい」



わかりました、と彼に応える。そしてかすかに頬を緩めた。



「ゆっくり話をしましょう」



今度は、わたしがあなたの手を引いて前を歩く。






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