尽くしたいと思うのは、
そんなことないと言おうとしたわたしを遮るように、加地さんがはっと息を吐き出す。自身に対する嘲りの混ざったそれがわたしの胸を切なくさせる。
「だから、水瀬ちゃんには俺なんてあわないから、君の恋愛感情なんて消してしまおうと思った。キスをされて、傷つけば離れていくと思った」
「っ、」
「俺は君といるのがこわいんだ」
傷つけること、愛すること、愛されること。たくさんのことを恐れている加地さんの、そのすべてが愛情の証なんだ。
わたしはこんなにも、想われていた。
自分とあわないなんて、恋愛感情を消すなんて、勝手なこと。わたしはそんなふうには思わないし、思いたくない。わたしの気持ちはわたしのものだから、いやだと思う。
だけど、わたしを傷つけようとしながら、傷つけたくないと思っている加地さん。あなたのその優しさがわたしの心を捕らえて離さないんだと気づいていないんですか?
「俺のことなんて好きにならないで欲しかった」
「そんなの、」
「だけど! ……だけど、他の男を想うのはもっといやなんだ」
表情を歪めて、彼は苦しんでいる。その答えをわたしはもう知っている。
だから、ねぇ、いいでしょう?
「好きじゃだめなら────」
そっと手を伸ばす。懇願するように彼のそれを両手で包みこみ、持ちあげた。
「それならわたし、あなたを愛してもいいですか?」
わたしの愛は重いけど、それでも受け止めて欲しい。そのままのわたしを想って欲しい。
誰か他の人じゃだめで、ただひとり、あなただけに望んでしまう。
目を見開いた彼がわたしに顔を向ける。
ふと、真由がわたしに言ってくれた言葉がゆっくりと頭を巡った。
『くるみも幸せになっていいの』
あの時はわからなかった、そのわたしの幸せ。その答えをわたしは今、見つけた。ようやくわかったんだ。
「わたし、加地さんのために美味しいご飯作ります。女遊びが激しいのはいやだけど、あなたなら少しくらい気づかないふりしてもいいです」
「水瀬ちゃん……?」
「わがままなんて言いません。だから、ひとつだけ、お願いをきいて下さい」
少しだけ迷ったように目をそらして、だけどもう1度わたしを見て、なに? と尋ねた。
「────わたしの心を、もらってください」
大好きな人に尽くしたい、わたしのすべてで愛したい。
世界で1番好きな人が心をもらってくれるなら、これ以上なんて望まないから。今までの彼氏に面倒だと思われてきたような、他の感情は隠してみせるから。
だからわたしはただそれだけで、いい。
それだけで、わたしは幸せになれるから。