尽くしたいと思うのは、
彼の背に腕を回す。抱き締められて、抱き締め返す。そのことに涙が浮かぶ。
そのまま頬を濡らして、はいと応える。胸がいっぱいで言葉が出ず、ただはらはらと涙をこぼしていると彼がわたしから身を離して顔を覗きこんだ。
「ふっ」
わ、笑われた……!
いくら顔がぐちゃぐちゃになって不細工だからって、さすがにそれはあんまりだ。ふいと顔をそらそうとすると、するりと後頭部に手を回してくる。
「ああもう、水瀬ちゃん本当可愛いね」
「っ!」
ぽろんと転がった一粒の雫を最後に、彼の発言による衝撃から涙はとまった。
だって急すぎる。今まで重い、だめ男生産機、尽くしすぎ、その他もろもろひどいことばかり言われてきたんだからびっくりしたっておかしくない。
「初めて会った時から可愛いって思ってたよ」
「な、なに言って、」
「水瀬ちゃんが言ったんだよ?
本当の俺でいいって、好きだって」
それはうそだった? と加地さんが首を傾げる。
予想もしていなかった姿。甘すぎるし、どうしたらいいかわからない。経験したことのないことに頭が混乱して、恥ずかしくてたまらないけど、だけど。
「うそじゃない、です」
よかった、と彼がわたしのうなじまで指先を滑らせる。するりと撫でられて、びくりと肩がはねる。背筋がぞくっとしたことを気づかれてなければいい。
だけど嬉しそうな彼は気づいている。気づいていて、しているんだ。
「もう離してあげないから、死ぬほど愛される覚悟しててね」
わたしが返事をする間もなく、近づいた彼の顔の、鼻先と唇が触れた。ぬくもりをわけあっているかのように、きつくも緩くもなく重なったそれを柔らかく食まれた。
咄嗟に呼吸をとめている間に加地さんがゆっくりと唇を離す。はくはくと声を失ったわたしに、さらに言葉を連ねる。
「好きだよ」
そう言って子どものように、はにかむように。彼は見たことのない優しい笑みを浮かべた。