尽くしたいと思うのは、
◇交際の幕開け
味噌を溶いて、小皿にひとすくい。味見をしていつもの味だと確認できたところで火をとめた。
今日の晩ご飯は秋刀魚の塩焼きにきのこの炒めものに青梗菜(ちんげんさい)のおひたし、味噌汁。作りおわったところで普段ならすぐに器によそい食べはじめるんだけど、今日はそうもいかない。だけどおそらく、もうそろそろだ。
その瞬間、ガチャリと玄関の扉が開く音がして、わたしはぱっとキッチンを飛び出す。そのまま廊下を駆け足で過ぎて、
「おかえりなさい、加地さん!」
部屋の主を笑顔で迎えた。
「ただいま、水瀬ちゃん」
小首を傾げるようにして、加地さんがそっと微笑む。
あれから────加地さんと付き合うようになってから約半月が過ぎた。9月ももうおわる頃になり、最近は涼しくなったように思う。
彼との生活も慣れてきて、わたしたちの関係はなかなか良好なんだ。相性がいいらしく、それがとても嬉しい。
合鍵を預かるようになり、ほとんど毎日のように彼の部屋に行くようになった。
だから今日も晩ご飯を作っていた。仕事がはやくおわったこともあって、手のかかる和食を用意できたんだ。
ときたま……いや、まめに。羞恥で死にそうになるほど、甘やかされることもあるけど。でも基本的にはからかわれつつ、わたしが尽くしたいように尽くす日々だ。
彼の手から荷物を受け取り、並んでリビングへと向かう。
「ご飯できてますよ」
「ありがとう」
「ビールも冷えてますし、あと少し掃除もしておきました」
「うん」
心なしか整理された部屋を見て、うーんと加地さんが声をあげる。腕を組んだ彼にどうかしたかと尋ねると、わたしを見て答えた。
「いやぁ、相変わらず尽くしすぎだなって」
典型的な重たい女の行動だよね、と言われた瞬間わたしはショックで固まった。
そ、そっか……そうだよね……。思えばわたしの行動で重たくないことなんて、そうそうない。
しみじみと言われてしまったし、気にしないといけないよね。
「すみません……」
「いや、いいよ」
軽やかに笑って、彼が首を振る。そのままわたしの頭にぽんと手を置いて、顔を覗きこむ。
「それが水瀬ちゃんの愛情だもんね?」
言い方が悪かったね、と髪をかき混ぜるようにしてくしゃりと撫でられる。だけどそれよりずっと、彼の言葉が胸に響く。