尽くしたいと思うのは、
わたしの愛を重たいと言いながら、重たいと思わない。そのままを受け入れて柔らかく笑ってくれる人。
今、わたしの掌には、ずっと欲しかったものがあるんだ。
嬉しくて、あまりにも……嬉しくて。涙がにじみそうになりながら笑う。するとその表情を目にした加地さんがきゅっと軽くわたしを抱き寄せて、すぐによし、と言って目をあわせる。
「ベッド行こっか」
「え⁈」
なに言ってるんですか! と声をあげる。耳まで一気に赤くなったのが自分でもわかって恥ずかしい。
わざとらしく彼はわたしの耳をくすぐるように触れた。
「尽くせるところといったらそこでくらいだし?
可愛いくるみに重たい愛情をあげることにします」
「っ、」
ここでくるみって呼ぶなんてずるい。おどけたような敬語も、加地さんはずるすぎる。
彼の口から出る響きが甘くて、そんなのもう抵抗できそうにないじゃないですか。
ううっと上目遣いで睨むけど、もう内心わたしは完全に降参している。嬉しそうに笑った彼のその仕草も好きなんだからたまらない。
「加地さんはすぐにわたしを幸せにしてずるいです……」
もごもごとこぼせば、それは違うよと彼が横に首を振った。
「〝幸せにしてる〟んじゃない。
ふたりでいるから〝幸せになる〟んだ」
前髪にちゅっと可愛らしい音を立てて、キスがおとされる。ね? と得意げに笑った彼にはかなわない。
加地さんが触れたところを手で押さえて、わたしはそっか、と目尻を下げて頬を赤く染めた。
以前の加地さんは、わたしにだけ毒舌で優しくなんてしてくれない。そのくせ色々な女性に声をかける遊び人で。もうずっと、長いこと軽い恋愛関係しか築こうとしていなかった。
そんなあなたが今、尽くしたいと思うのは、愛したいと思うのは、わたしだけ。その事実にわたしは甘くとろかされる。
不器用な人だから、わたしは自分の全てであなたを幸せにしたいと思う。だけど、それはもう違う。
わたしたちはひとりじゃないから、欠点さえも受け入れて美点に変えてくれる人がいるから、
「これからもずっとそばにいて。
ふたりで幸せになりましょうね」
わたしは自分から、愛する人との日々を誓うキスをした。
fin.