消えて失くなれ、こんな心



僕自身は死を受け入れているつもりだ。死にたいのなら死ねばいい。どうぞご勝手に。そういう考え方で生きてきた。けれども彼女は、目が否定していると言う。


そうでしょう、と聞かれてイエスもノーも言えないのは、彼女の言うことがどこかで的を射ているからなのだと思う。どういう返事をすればいいのかが全くもってわからない。確かに僕は「死んでしまおう」とは思わなかった。けれどもそれが死を否定することと一致するとは到底思えなかったのだ。


「じゃあ」


何を血迷ったのか、僕は自分でも驚くようなことを言い始めた。気づいたときには僕の口はもう止められなくなっていた。


「僕が君の前で死んでみせたら、君は僕が死を肯定していると認めてくれる?」


彼女は何も言わなかった。その代わり、ただ黙って、何をばかなことを、とでも言うように彼女は僕を睨み続けた。僕も彼女から目を離さなかった。僕自身がこんなことを言うなんて思ってもみなかったけれど、冗談のつもりではない。〈僕〉が僕をそういう目で見てくれるのならば、僕は喜んで〈僕〉のために死んであげよう。


「そんな簡単には認めてあげません」


自分が死ぬと言えば「はいわかりました」と言ってくれると思っていたのだけれど、どうやら僕の考えは彼女よりもずっと浅はかだったようで、頷くことなく彼女はまるで焦らすかのように意地悪に言った。けれども自分では認めてくれるのではないかと思っていながら、僕がもし彼女の立場だったら僕は彼女と同じ答え方をするだろう。


矛盾している。矛盾しかしていない。そんなことは僕にだってわかっているけれど、認めてもらう側と認める側の立ち位置というものはこういうものだと僕は思うのだ。


〈僕〉のことだ、簡単には認めないと言ったのならば、かなりレベルの高いこと、あるいはレベルの低すぎるばかげたことを求めてくるはずだ。〈僕〉の出す難題とはすなはち僕自身が考え出せる程度のものだ。言ってしまえばそんなものは難題でもなんでもない。こんなちゃらんぽらんの僕の分身である〈僕〉が考えられることなのだから、僕にクリアできないはずがない。


「死を肯定すると断言する人間が自ら死ぬなんて、説得力の欠片もないじゃないですか」


「誰かに殺されればいい、と。そういうことかい?」


僕自身が自ら死ぬことに意味がないのなら、誰かの手によって命を絶たれればいい。僕は彼女の言葉からそう解釈した。極めて単純な思考回路だ。未だにあの歪んだ自尊心を捨てられずにいるのだから、僕という人間はかなりのポンコツらしい。周りの人間をばかにしておきながら、僕という人間に対しての僕自身の評価は依然として高く、そして狂っているままだ。


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