消えて失くなれ、こんな心



お前がいるから、という幼い頃から聞かされ続けた両親からの言葉がまるで呪いのように彼女の心を拘束して、そこに鍵をかけてしまった。私が関われば、きっとみんなが両親みたいになる。小さなことで喧嘩をして、笑顔というものを忘れる。


友達なんて、いらない。私は私の世界だけで生きていけばいいんだ。お前がいるから。そう言われたときは黙って笑みを浮かべていればいいんだ。仮面さえあれば、私は傷つかなくて済む。


笑顔という名の仮面をつけ始めて、ほんの少し、世界が変わった。


中学生になる頃には、亀が歩くスピードのように少しずつではあるけれど、友達とまではいかなくても話せる程度の関係を築けるようにはなってきていた。このままの状態を保てばきっと、みんなが私を友達として認めてくれる。一度は捨てた友達を、今度はちゃんと持つことができる。そう思っていた。


とある少年――あるいは少女――に出会うまでは。


その出会いは、中学生になったばかりの頃だった。男の子なのか女の子なのかわからない子――名は七草というそうだ――がいた。ただの思い込みや見間違いなのかもしれないけれど、男子生徒用の学生服を着ているように見える日もあれば、セーラー服を着ているように見える日もあった。男の子だと言われれば確かにそうだと思うだろうし、逆もまた同じようにすんなり頷けただろう。もしかしたら双子の兄弟や姉妹がいて、ときどき入れ替わっているのではないか、と思うことさえあった。


何を考えているかもわからないし、もしかしたら何も考えていないのではないかというほど、七草は周囲のことに無関心だった。それはきっと、物事に限ったことではなく、人間に対しても、だと思う。実際に柊は、彼あるいは彼女が誰かと話しているところを見たことがなかったからだ。いつも窓越しに外の世界を見つめていて、その眼はなんだかこの世界の終わりを探しているような色をしていた。


そんな七草にちょっかいを出すようになったのは、そして、ありもしないでっちあげの噂を流すようになったのは、いつからだっただろう。はっきりとは覚えていない。気がつけば彼女は、クラスのリーダーとなって七草をいじめて愉しんでいた。教科書や上履きを隠したりみんなで無視をしたりもした。グループ活動では余りものとして扱うこともあった。こっそり取った教科書をトイレに投げたり、男子はその子を殴って上に跨って雑巾を押し付けたりもした。


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