消えて失くなれ、こんな心
低レベルで単純な、けれども残酷ないじめ。でもそのことに対して、罪悪感を覚えていたわけではなかった。これは神様によって決められた運命のようなもので、仕方のないことだ。そんな認識でしかなかった。そのターゲットの何が気に入らなかったのかと問われれば上手く答えられないけれど、好きか嫌いかの二択で問われれば、迷うことなく「嫌い」と答える確信はあった。
その理由はとても簡単で、何を考えているかわからないから、という言葉で片付く。両親と同じなのだ、この人物は。何を考えているのか読めない人間は、怖い。ただ、それだけ。関わるのも怖い。でも、わからない人間を野放しにしておくことの方が、もっと怖かった。いつかそんな弱さを知られてしまうのではないか。いつか仮面を剥がされ、「お前がいるから」と血縁のない他人からも言われてしまうのではないか。
好きか嫌いか。答えはもう、出ている。――嫌い。
あなたがいるから、私はあなたをいじめざるを得ないんだ。
世の中は、理不尽だ。子供の世界は、残酷だ。ただそこにいるだけでいじめの標的にされる七草も、そう思うだろう。柊は感情のわからない人間はターゲットにされることを知っているから、仮面を被ってでも表情の読める人間になろうとした。いじめが自分に向かないように。お前がいるから、という言葉を、もう二度と自分に向けられないように。
一つだけ悲しかったのは、皮肉にもその環境が心地いいと感じてしまっていたことだ。不良や非行とまではいかなくても、これでは両親と同じだ。抜け出す方法はある。でも今その方法を実行してしまうと、今度は自分がいじめの対象になる。そして私がちょっかいを出していじめていた七草からも、「お前のせいで」と恨みを向けられるだろう。
どうしても、その言葉が離れてくれない。思考そのものが、離れられない。言われるのが怖くて、ただ自分が可愛くて。だから中学生の間は、この立場から離れるわけにはいかなかった。
高校生になれば、同じ高校に通う人は少なくなるし、遠い地域からやってくる人もいる。あとのことは、その人たちに任せてしまえばいい。