消えて失くなれ、こんな心
まずは、柊茉優に復讐する。どういうプランがあって、どういう基準で柊茉優という人間を復讐の最初の対象としたのか、そんなことは僕にはわからないが、とにかく彼女はそう言った。柊茉優のことは中学生のときのことまでしか知らない。と言っても、僕は柊茉優からいじめられる立場だったから、僕が彼女に興味を持つ理由なんて一つもないのだけれど。
それでも、どんな立場であっても、関係があったという事実は避けられない。少なくとも僕の記憶の中での柊茉優は、こんな自殺をしたがるような人間に復讐をされるほど弱くはない。それはただ、強さというもので覆い隠しているだけなのかもしれない。でも、たとえそうだとしても、きっと柊茉優は彼女に命を奪われることはないだろう。リーダーとなって率先して僕へのいじめを促していたくらいの人物なのだから、自分自身を守る術くらいは、持っているはずだ。
「一筋縄ではいかないと思うけどね」
「知っています」
彼女はあっさりと頷いた。まるで、僕がそう言うことを知っていたかのような頷き方だった。そして、続ける。
「だからあなたに協力してもらうんです。あなたは死を肯定している、と私に認めてもらいたいんでしょう?」
僕はなにも、僕の考えを認めてもらうことに固執しているわけではない。確かにそれも一部分である。それは否定しない。でも、僕が彼女に協力する最も大きな理由は、彼女には、あるいは〈僕〉には、僕がいないといけないと思ったからだ。きっと彼女はこれからも自殺をし続け、その度に失敗して、傷を増やすだけの無駄な行為として終わらせてしまう。自分の命が消えてくれないことに対して、絶望したまま生き続けることになる。
私を殺してください、と彼女は言ったけれど、彼女はきっと、僕に殺してほしいわけじゃない。本当は自分で死んでいきたいのだ。死んでしまいたくて、けれども自分一人では中途半端に終わってしまうばかりで、誰かに手助けしてもらいたいのだ。
けれども、死んでしまおうと思ったこともない僕に、自殺の手助けを依頼するなんて間違っている。僕なら、一度失敗した時点で、僕は自殺するべきではないのだと諦める。死ねないのなら、死ぬべき時を待つしかない。
それでも彼女は待てない。何がそこまで精神状態を追い詰めているのかはわからないが、とにかく彼女はこの世から消え去りたいのだ。やはり目の前にいるのは〈僕〉だ。彼女の死にかけの身体が、僕にそう言っている。