消えて失くなれ、こんな心
「あなたが高校生のときまで暮らしていた場所にいます。柊茉優は、自分が臆病であることに疲れていて、疲れることに臆病になっているので」
相変わらず、彼女の言いたいことを自分の中で上手く噛み砕くことができない。自分の臆病さに疲れを感じ、その疲れに対して臆病になっている。なんだ、それ。そんなの、無限ループじゃないか。抜け出す術が、ないじゃないか。
「柊茉優が今でもあの場所にいることと、疲れを感じていたり臆病になっていたりしていることとの繋がりが見えないんだけど」
「私があなたの手によって死んでいきたいことと、彼らに復讐をすることとの繋がりと同じだと思ってくれれば結構です」
「それだとさらにわからないな」
「他人に興味のないあなたが小学6年生のときに一度だけ言葉を交わした女の子のことを覚えていることと、私とあなたが出会ってしまったことと同じです」
「出会ったばかりの君に、僕が他人に興味がない人間だなんてあっさり言われてしまうとは思ってもみなかったよ」
これは本心で、一瞬ではあるけれど確かに僕は驚いた。そしてすぐさま、話題を戻す。
「それで、君と彼女は何か関係があるの?」
「それは、あなた次第です。質問ばかりしないでください」
表情こそは変わらないけれど、僕の質問攻めにうんざりした口調で彼女は言った。さっきまで間を空けることなく僕の質問に答えていたけれど、このときばかりはまるでため息をつくほどの間隔があった。実際には彼女はため息をついてはいないのだけれど、やれやれ、と思っているに違いない。
あのとき一度だけ会話をした彼女と、目の前にいる彼女。2人が繋がるような部分が見つからない。なぜ目の前にいる彼女があのときの彼女を知っているのだろうか。2人に接点なんてあるのだろうか。そもそも僕は彼女の名前も顔も覚えていないというのに、僕次第だと言われても僕にはどうしようもない。目の前にいる彼女と柊茉優や岡崎拓海との接点すら、僕には見えていないのだ。けれど、これ以上訊いてもあまり意味がなさそうだ。
「悪かったよ」
どうやら、彼女の言うことにはとりあえず何も言わずにわかったふりをして、ただただ頷いている方がいいらしい。今になって落ち着いて考えてみれば、きっとそちらの方がよほど賢明に思う。それでも、彼女の表情筋が動くことはない。