消えて失くなれ、こんな心



そんないじめは、高校へ進むとなくなった。いや、なくなったという表現で片付けるのはよくないな。僕は同級生が誰もいない、隣町の高校を選んだのだ。だから僕はいじめられなくなった。


中学3年生になったときには、昼休みになると僕は必ず図書室へ行った。あんなやつらから逃げるような形になるのは気に入らなかったけれど、それでも何事もない生活がほしかった。前にも言ったように死という選択肢を持っていなかったのは、今となってはとても幸せなことだったけれど、やはり当時はあの状況から解放されたかったのだ。


まあそんな図書室での時間のおかげで、僕はやつらよりもずっといい高校に入学することができたのだけれど。同級生が誰もいない高校を選んだということは、こういうことだ。


この僕の選択が正しかったのか間違っていたのかは今でもわからないけれど、知り合い――それも僕をいじめていたやつらがいない環境というものは心地良かった。まああいつらは僕をいじめるのが愉しかったようだから、勉強なんてものに興味を示すことがなかったようだけれど。


けれどもやはり、高校生活というものは実にくだらないものだった。いじめられなくなったのはいいことだったのだけれど、周りのやつらはどうしてかばかしかいない。僕の思考がひねくれているからそう見えるだけかもしれないけれど、高校生になってもなおばかなやつらを見ることになるなんて思ってもみなかった。


何が言いたいかというと、まあこれまでの経緯からして僕は人と関わることを避けてきているわけだから、そんな僕を気持ち悪がって陰口をたたくやつが出たり、あからさまに僕を避けたりと、やはり僕の周りにいる人間は昔から本質は同じだったということだ。まあ、僕自身の本質が変わらないからっていうことでもあるのだろうけれど。


それでもやはり、僕が一番優れていて賢いのだという考え方を、僕は自分の中から消し去ることができなかった。たぶんこれが、僕がいつか〈心〉を捨てなければならない原因になるのだろう。


いや、捨てるというよりは、消去させなければならないと言った方が適切かもしれない。


捨てるのと消すのとでは、意味が全然違う。捨ててしまえば、その後に誰かが見つけて僕の落とし物として拾ってくるかもしれない。でも自らの手で消してしまえば、もう誰も見つけることはできないし僕のもとに戻ってくることもない。


おそらく、捨てようと思う前に消してしまおうという考えが出てきたのは、彼女の存在が最も大きかったからだろう。


これからする話は、僕と彼女の〈心〉の話だ。


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