消えて失くなれ、こんな心
死ねなかった、もう一人の〈僕〉



何か目的があるわけでもなく、僕は大学生になった。つまり僕は、最も大学に入学してはならない人間だということだ。目的がないなら合格しなかった誰かに席を譲れと言われそうなのだけれど、ごもっともな意見なので反論はしない。


一応3年生にはなったけれど、梅雨の季節になると雨の中登校するのが面倒だという情けない言い訳を作って、僕は学校に行かなくなった。退学したわけじゃない。ただのさぼりだ。アルバイトをしているわけでもなく、サークルに入っているわけでもない。ボロボロのアパートで質素な暮らしをし、ただただその狭くて暗い部屋に閉じこもってだらだらとした時間をそのまま過ごすだけの日々。


することといえば、酒を飲むか煙草を吸うか、それくらいだ。あ、ときどき外も歩く。散歩だ。おじいちゃんかとつっこまれそうだけれど、まあそんな感じだ。


もう本当に、ニートだ。僕は周りのやつらより優秀な人間なのだとあれだけ豪語していた人間が、今ではニートに成り下がってしまっている。人生、どうなるか本当にわからない。一度学校をさぼっただけで、僕は俗に言うダメ人間になってしまったわけさ。僕が見下してきた人間たちの方が、僕なんかよりもずっと充実した生活を送っているに違いない。でも、それでもこの歪んだ考え方がなくならないのはどうしてだろう。


煙草に火をつけ、煙を吸う。この煙を嫌っていた幼い頃の僕は、煙草の何がいいのかが全くと言っていいほどわからなかった。だって小学校や中学校、あるいは高校での授業の中で「煙草は身体に害を与えるものだ」と散々頭に叩き込まれてきていたのだから。


校則なんていうルールに縛られ、集団という息苦しさに耐えながら僕らは生きていた。どんなに学校生活が楽しく感じていても、所詮僕らは校則という檻に閉じ込められた学生だった。


高校さえ卒業してしまえば、僕らは自由を手に入れた鳥になれる。社会という大きな檻の中から出られないのは確かだけれど、自分の意志でできることは格段に増える。だから僕は、高校生の頃まで遠い存在だった煙草と酒に手を出した。


煙草の煙には、吸い始めた頃は嫌悪感を覚えたものだけれど、その煙に脳がどんどんやられていったのだろう、いつの間にかその煙が心地よく感じるようになっていた。きっと僕の肺は真っ黒だ。


そういえば、サザエさんに出てくる男性陣は酒こそ飲むけれど煙草は吸わないな。そんなどうでもいいことを考えながら、僕は散歩に出かけた。


気まぐれに動くということは、きっと一番危険だ。


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