消えて失くなれ、こんな心
水曜日。平日と呼ばれる5日間のうちの、ど真ん中。煙草を吸った後だから喉の奥に違和感程度の煙たさがあるけれど、脳はすっきりしていた。どうやら僕の脳は取り返しのつかないほど、煙にやられているらしい。
梅雨入りしてから一度も学校に行かなくなった僕。それ以来ずっと部屋から出なかった僕。煙草にやられた脳でも、このままではいけないとわかったのだろう、比較的過ごしやすい日には僕は散歩に出かけるようにしていた。つまり今日が、その過ごしやすい日ということだ。
本来ならば真っ青な空がどこまでも広がっているのだろうけれど、灰色のいかにも重そうな雲がその青を全て隠している。太陽に顔なんて出させないぞと言わんばかりの、分厚くて硬い雲。今にも雨が降り出しそうな雰囲気なのだけれど、僕にはこれくらいの明るさがちょうどよかった。
灰色の見るからに硬くて冷たそうなコンクリートの壁が先までずっと続いている。その塀にいささかの圧迫感を覚えるのは、僕だけなのだろうか。この辺りは昼間だからといって車の通りが多いわけでもなく、昼も夜も静かであることに変わりはない。強いて言えば、夜の方が静まり返っている。そんなことは当然のことなのだけれど。
道も狭くて、今の僕みたいにこうして歩行者がいると、それだけで車一台通るのには少し厳しい。でも、軽自動車なら少しばかりの余裕はあるかもしれない。それくらい、この道は狭いのだ。
そんな窮屈な道をずっとまっすぐ歩いていくと、踏切がある。その踏切も、一応は僕の散歩コースだったりする。僕が歩く時間は、どうしてかその踏切によく捕まる。タイミングがいいと言うべきなのか悪いと言うべきなのか。
いや、今日ばかりは、悪いとしか言いようがないな。
タイミングが、と言うよりは、状況が、だ。状況が、悪すぎた。
カンカンカン、と踏切の鳴る音が聞こえ始めた。当然僕は、「またか」という思いになる。まあそんなことはいつものことだから、別に踏切ごときにそんなにイライラすることはないのだけれど。
けれどもそこには、いつも通りでない光景が、確かにあった。
完全に閉じられた、黄色と黒の縞模様が入った遮断機。その閉ざされた世界に、いつもならないはずの人影があった。