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だけど、やっぱり真っ赤であろう頬を彼には見られたくなかった。もしかしたら私だけが彼を意識している様な気がして、それが恥ずかしくて。


だからどっちみち私には俯くことしか出来なかったのかも。


そんな私に対し宝生さんはなぜだか顔をわざわざ覗き込んできて、私の心臓を余計に暴れさす。それがわざとなのだか、無意識なのだか分からないけど。


だけど、お願いだからあんまり近付かないで欲しい。心臓のバクバク言っている音が彼にも聞こえそうだから。だからギュッと目を閉じた。


が、すぐにホームに電車が流れ込んで来て、彼の気配が遠ざかる。それにほっとした私は目を開けた。


彼はどんな思いでそんな事したんだろ?


そう考えてしまうからぼんやりと彼に目線がいく。だけどどんなに考えても考え付かなくて、諦めて私はついさっき来たばかりの電車に意識を集中させる。


が……


「棗……?」


どこからともなく誰かに呼ばれた気がした。


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