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私はその声に振り返る事が出来なかった。
だって、その声の主に心当たりがあったし、だけどまだ会える気分じゃあなかったから。
「やっぱり、棗だよね」
「………」
そんな私の気持ちなどお構いなしに彼は近付いて来る。だけど宝生さんが居る手前、無視を決め込む訳にもいかない。
「やっぱり棗だ。久しぶり」
ニコニコと目を細め、優しく微笑んでる彼が近づいて来る。私は仕方なく彼を視界の中に入れた。
「楢崎…くん…」
「久しぶり、元気だった」
「うん、元気だよ。……それよりどうしたの?こんな所で?」
久しぶりに会う彼はあの頃のまんまで、まだカレカノの延長線上にいる様な感じがした。だから私も知らず知らずに彼に向けて優しく微笑んでた。
「それより、忘れ物届けたいんだけど」
「え、忘れ物?」
「そう、忘れ物!」