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心当たりのない彼の一言に首を傾げる。彼の部屋に忘れ物なんてしてない筈。
「棗ちゃん、電車出るよ」
宝生さんの一言ではっとした。目の前に停まっている電車の出発の合図が構内に響く。私は慌ててその電車に乗り込んだ。
「棗、また会えるかな?」
電車に乗りふと振り返ると楢崎くんが真剣な表情で私を見詰めていた。
「……うん」
電車のドアが閉まる瞬間、私は何となく頷いていた。楢崎くんがあまりにも物悲しげな表情をしていたから。本当はだめなのに。
だけど、本当にまた会えるのかな?
動き出す電車は彼と私の距離をどんどんと離してく。私を見つめたまま動かない彼と、そんな彼から目を離せない私。
隣に宝生さんが居るのも忘れ、私達は目線を絡ませ続けた。