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「彼氏、居たんだ……」


「え?」


駅からだいぶ離れ、外は見慣れた家並みが広がる。席もぽつぽつ空いているから座ればよかったけど、なぜだか私も宝生さんもドアの近くに立ったまま、あのまま動かなかった。


「うん、いや、何でもない」


私の隣に立つ宝生さんはじっと窓の外を見てる。少し冷たい表情をした彼はいつもの彼。だけど彼からそんな言葉が出てくるなんて想像もしなかった私は、窓に写る彼の顔をじっとみてしまった。そしてそんな視線に気付いた彼と窓越しに目があった。


「ん?」


「あの、さっきの人『彼氏』じゃあないです」


「……」


「もう別れてるんです私達。だから彼は元カレです」


「………」



私、宝生さんに向かって何はなしてるんだろ?


こんな事宝生さんに話しても仕方ないのに。


だけどどうしても聞いて貰いたかった。誤解とかして欲しくなかった。確かにまだ彼の事は好きだけど、でも宝生さんには知られたくなかった。


きっと別れても好きなんて、理解される気持ちじゃあないから。


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