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◇◇◇
その夜私は眠れなかった。
凌介さんの台詞が、ってよりも、今まで見て見ぬふりしていた自分の気持ちに何となく気付いてしまったから。
忘れてた筈の楢崎くんへの思いがまた心の真ん中に居座っていると気付いてしまったから。
物腰の柔らかかった彼。優しく笑う顔、少し困った顔もまだまだ私の中では健在で思い出にはなっていない。
そして、何時だって自分よりも私を気に掛けてくれた優しさ。
会社に入ってすぐ出会った彼は、私にとって王子様みたいな初めての彼だった。
「眠れないの?」
ベランダで夜風にあたっていると、そう声を掛けられた。
「宝生さん……」
声のした方へ振り返るとそこには宝生さんが立っていた。ゆっくりと私の元に近付いて来る彼。ベランダの柵に身体を預けてる私の隣に彼も並んだ。
「眠れないの?なら、これあげる」
ガサゴソとビニール袋を漁る。その音に私は宝生さんをじっと見つめた。まだスーツ姿の彼。今帰ってきたばかりかな?
「今、帰りですか?」
「うん、今日飲みがあったから…」
もう日付が変わる時間。
けど、いつもと変わらない宝生さんの態度はそんな風に感じられなかった。