君が好きになるまで、好きでいていいですか?
そのまま玄関まで彼女の後を追って、靴を履くのを見下ろした
「やっぱり、俺なんかしたんだろ………」
ふるふると顔を伏せたまま首を振り
目も合わさないその赤らめた顔
確実に俺を意識した反応だろ
帰ろうとして、ドアノブを持つそのドアを咄嗟に押さえ付け、兎に角ここで気まずいまま帰したくなかった
「……………っ」
「……………」
玄関のドアの前で、顔を俯かせている万由に覆い被さるように、そのドアにもう一方の手もついた
昨日俺に発した、先輩の挑発が頭を過る
『いつの間にか誰かに連れてかれるぞ』
『彼女がフリーになったって事は、誰にでもチャンスはある』
『大体今、沢村万由はお前のものじゃない』
今ここで、与えられた二人だけの状況
二度とないだろうチャンス
「なぁ…………俺と付き合ってみないか?」
赤くなった耳が、可愛くて思わず顔を近付けると、ピクリッと肩を上げた
「わ、わたし………まだ」
「前に進めないんったら俺が推してあげるから」
近づけた顔をそのままに俺はまだ酔ってるのか、そんな言葉がついて出てくる
「俺じゃ、ダメか?」
そう言うと、くるりと向きを変えた万由が
後藤の正面を向いた
「かっ……………考えさせて下さい!」
「んっ?」
「きょっ今日は、かっ帰ります。あの、帰り道は解ります。会社の近くですから………
課長はゆっくり休んで下さい」
「あ、はい」と拍子抜けしたように、ドアから手を離すと、一礼して出ていった