君が好きになるまで、好きでいていいですか?
「用件がそれだけなら切るよ。さすがに二日酔いなんで………」
そう言うと、向こうの電話口から別の人の声がする
『………佳樹?』
『そう………』
「……………先輩、誰かと一緒?」
微かに女性らしき声がする
『……………ああ、実は一花といる』
「……………一花?!」
その懐かしい名前に驚いた。
彼女が最近離婚した事は地元の友達に聞いて知っていた
でも、さすがに逢うことないだろうと思っていた
「先輩のとこって………?」
『今付き合ってる。お前にちゃんと言わないとと思ってたから、その内時間取れるか?』
「……………」
山森一花(やまもりいちか)
俺の幼馴染みで、7年付き合っていた元カノだ
別れが最悪だった為に、もう関わる事はないと思っていた
高校2年に幼馴染みから恋人になったのは、一花の方からの告白だった
そんな風に意識はしていなかったが、男子高校生の見栄と欲望、それが満たされるくらい一花は容姿の綺麗な女だった
もちろんずっと仲良くしていたし、お互い親も仲が良かった
好きだと意識したのは付き合う事になってからだったが、それなりに大事な恋人だった
高校は野球部が忙しく、大学でも正直勉強や友達を優先していたのは確かだったが
就職が決まると同時に同棲を始めるくらい上手くいっていたはずだった
土日もカフェで働く一花と一緒にいる時間が1日何時間もなくたって、いずれは結婚するかもしれないと、漠然と考えていたこともある
その一方で彼女の行動に、気持ちの変化を認めたくなくて見てみぬ振りをしていた
…………いや、俺は気付いていながらそんなはずはないと、何もしなかったのだ