君が好きになるまで、好きでいていいですか?
ゆっくり並んで歩いていた歩みを止めた

「大丈夫、酔ってはないよ。」


その答えに首を振る万由


「そうじゃなくて、なんかまるで失恋したみたいな顔してます後藤さん………」

「…………は?」

「……………」


大体分かる、上手く言えないけど
表情がいつもと違う。優しさのなかに寂しさが紛れてる

…………見ててすごく切ない

久しぶりに昔の恋人に逢ったから?

そんな恋人が別の人といるのが当たり前になっている事………?

見上げた顔を心配そうに歪ませる万由に、
フッと気が抜けたような優しい顔を見せる後藤

腕のスーツを摘まむ手を外し頭を撫でる

「そうかもね。失恋したみたいだ………」

その言葉にグッと息を詰める



「………後藤さん、まだ一花さんの事好きなんですね」

そう言うと、頭にあった後藤の指が万由の額をペチンッと突いた


「った?! って、えー…………?」

不意打ちに突かれて眉を歪ませ、額を押さえる


「違うよ。一花に失恋していた事にやっと気づいたんだ。今まで忘れてた」


「…………?」


「6年前、俺が振られてたんだって今わかった。別れた事は自覚してたけど、なんか客観的に見てたんだな。まるで他人事だったよ6年間………」

「………?」

息を吐くようにフッと肩をあげる後藤


「完全に付き合う前の幼馴染みには戻れないもんだよなやっぱり。寂しいけど」


「…………後藤さん、世話好きですもんね。」


いつまでも世話のやける仲の良い幼馴染みでいればよかったと、今頃後悔してるって事?


「…………慰めてあげましょうか?」

『慰める』なんてそんな簡単な言葉しか言えないけど
どう足掻いても、彼らの過去には踏み込めないだろうし

そして………

どうしようもない彼の中の一花さんに嫉妬しているなんて…………

つい、その寂しそうな後藤の頬に手を伸ばした

「ったくぅ…………」

万由の見上げた瞳を見つめ返しながら目を細め、後藤の大きな手がその頬にある万由の手に重ねてきた


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