君が好きになるまで、好きでいていいですか?

「あの…………」


どうしよう、取り合えず鉢合わせはまずいよね

「今から実家に急いで帰らなきゃいけなくなったんで、ここでタクシー拾います」

「ここで? 随分急ぐんだね。でも駅まで行った方がタクシーはあるから、駅まで行こう」

「…………ですよね」



ここで別れて駅までタクシー使って行けば鉢合わせは免れると思ったんだけど…………

仕方無い。歩いて駅まで10分、なるべく早く別れればなんとか…………


「何かあったのか?随分急いでるみたいだけど」

大通りまで出て、駅へ二人並んで歩いて行く


「いえ、あの………しっ、親戚の人が倒れたらしくて、入院したから………えっと、ごめんなさい」

ダメだぁぁ、説明できないっ!

要領を得ないまま、シドロモドロになる


「大丈夫?急いだ方が良さそうだね」

そう言って万由の手を捕って早めに歩き出した

「あっ……」


賑やかな大通りを背の高い後藤に手を引かれて歩いて行くと、全然景色が違う


彼は早歩きだけど、私は小走り

速い速いっ………でもその方が好都合だ


あっと言う間に駅まで着いちゃった


時間はPM10時になる頃 慧ちゃんが来るまであと13分………

「あ、ありがとうございます。じゃあこれで」

取り合えずここで別れてタクシー乗り場にそれらしく向かって…………って


「万由……」

あれ?手が離れない………

「土日はずっとやっぱり実家?」

「え…………はい」

たぶん………

「そっか、じゃあ帰って来たらメールくれる?」

「えっ?」

繋がれた手が指先だけ絡まった状態のまま、そう言われて顔を上げる

「月曜日から3日間出張でいないから………」


「あ………はいっ分かりました」


絶対しますっと答えると、嬉しそうに笑顔を見せて「じゃあ」と手を振って見送ってくれた


笑顔を返して、乗らないタクシー乗り場に胸を痛ませながら向かう


タクシーで、なんて嘘までつく必要があっただろうか………?



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