君が好きになるまで、好きでいていいですか?
平気な顔して車から降りて、校舎に向かう慧斗
「大丈夫だよ。ほら、部活やってるし」
この時期の中学校は夏休みで試合が近いのか、日曜日なのにいくつかの運動部たちが運動場で練習中みたいだ
「堂々と、保護者面してればばれないよ」
保護者って、さすがにそれは無理があるでしょう
「慧ちゃんっ」
仕方無く後ろを追うように、昇降口から中へ入る
「何か御用ですか?」
途端、誰かに後ろから声を掛けられ、思わず肩を屈める
ほらぁ……完全に不審者だよ私たち
「安藤先生っ!」
「あれ?!なんだ、もしかして宮下か?」
卒業してもう10年も経って、知っている先生なんていないと思っていたのに
声を掛けてきたのは、当時からいた安藤先生だった
生徒会長をしていた慧斗の事を覚えていたらしく、顔を見るなり懐かしそうに軽い談笑を始めた
「遊びに来たのか? 優等生彼女連れて」
「へ?」
優等生彼女?
「沢村だろ? 沢村………なんだっけか 宮下によくくっついてた一年生」
「ははっ……覚えてたんですか?」
「…………」
「成績優秀だった生徒だけは絶対覚えてるのが俺の自慢だからな」
自慢気に両手を腰にあて胸を張る安藤先生
そんな自慢していいのか? 先生………
忘れられてる生徒が可哀想だろう
「まあいいや。校舎には誰もいないから好きに入っても構わないぞ。職員室には言っておく、どうせお前達を知ってる先生はいないから」
「有り難うごさいます」
二人で安藤先生に頭を下げた
「相変わらずだったな、安藤先生。昔から分かりやすくて扱いやすくて」
階段を昇っていって角にある3階の教室に入っていった
慧ちゃんが3年生の時の教室だ
懐かしいなぁなんて言いながら窓側の席に近寄った
「万由は3年生の時は何組だった?」
「あ……私は隣だったかな」