君が好きになるまで、好きでいていいですか?


「それは良かった」

「わっ!」

気が抜けて腕を思いっきり伸ばし、椅子の背凭れに寄りかかった状態から耳の近くで声がして、思わず仰け反った

椅子から落ちそうなくらいビックリする万由の後ろから、長い脚と身体を90度に曲げて画面を覗き込むようにそこにいた


「しゅっ、主任っ」

「珍しいね、ミスだらけの万由ちゃんなんて」

ニッコリと近すぎるその笑顔に椅子ごと引いた

「すみません………も、もう終わりました」

急いでデータをプリントアウトして、再提出の付箋を着けて提出した


そのままバタバタとする万由の席で立ち見守られた後、「じゃっ、休憩しようか」とミルクティーの缶ジュースを手渡された

主任は歩美さんの席に座り笑顔を見せながら頬杖をついた


「あ、ありがとうございます………」

私もつられるように自分の席に座り、貰ったミルクティーのプルタブを開けた


「うちの従妹が原因?」

「へっ?」

従妹って………?


「後藤について行った山吹薫。君の不調の原因かな?」

自分的には気にしないつもりなのに
でも…………

「……………っあの、山吹さんって昔後藤さんと付き合ってたんですか?」

言い難そうに聞く万由に、浅野が首を傾げる

「さあ………僕は後藤とその手の話、した事なかったけど」


「そうですか……」

浅野の大きな手の平がフワリと万由の頭を撫でた

「心配する事ないよ。薫が自分に執着する理由は分かっているからヨシは」

………執着する理由?


浅野の言った事の意味が分からず、顔を上げた

「少なからず僕が関係しててね。正直に言えば薫は僕の婚約者だったんだよ昔」


「……………あ」

一花さんの話にでてきた婚約者って、山吹さんだったんだ…………


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