君が好きになるまで、好きでいていいですか?
「あの頃は、一花の事で酷く彼女を傷つけた時があってね…………」
「…………」
周りが薦める縁談話に興味もなければ、そのつもりも無いまま、彼女の方は婚約者として自分と本気で結婚するつもりだったなんて思わなかったと
「薫が一花を部屋から追い出した事に、僕は腹を立てたんだ………だから」
それからは縁談話も勿論破談に、一切従妹の彼女と繋がりを持たないまま、山吹常務とも絶縁状態になった
後藤さんとも一花さんの事で確執があったころ、主任に振られた山吹さん
主任も知らない後藤さんと山吹さんとの『特別』な関係
私…………結局後藤さんの事、何も知らないんだ。
そりゃ、そうだ私だってすべてを話してなんかないんだから………
『自分は彼の特別なんだって昔から言ってたわ。』
そんな風に言えるのはやっぱりずっと彼を見つめてきたから
そう思うだけで胸の中がザワザワと騒ぐ
はぁっ………と落ち着かせるように、一息溜め息をつく
「万由ちゃんはヨシが好きでしょ?」
「…………」
頭を撫でられたまま、顔を覗き込まれる
「前から気になってたけど、付き合ってるのに少し壁を作ってたようだけど、まだ元カレ引きずってたりするの?」
そう言われると、言い返す言葉もなく黙り込む
「図星?」
「…………後藤さんと一緒にいて好きにならない人なんていません。でも、まだよく解からなくて……」
「ははっ、確かに」と、笑ってみせる浅野
「んっ? 解らないのは自分自身の気持ち? 後藤は万由ちゃんにかなり本気だと思うけど。解りやすいだろ、あいつ」
「…………」
自分自身が彼を受け入れるのを躊躇っていた
何年も慧ちゃんしか好きでいなかったから、後藤さんに惹かれる自分がよく解らない
でもいつの間にか近くにいて落ち着くのは後藤さんで、
それでいていつもドキドキさせられる彼をいつの間にか好きになってて………
つい、この間まで違う人が好きだったのに、自分がこんなに軽くて気の多い性格だと思わなかったし、そう思われたくなくて
「私が…………っ」
私のはっきりしない行動が後藤さんを傷つけたんだ
なのに今、山吹さんといる事が嫌だなんて、自分勝手過ぎる
『とりあえず、無理をさせた関係を戻そう』
そう言われた事に、今頃になって胸が痛くなる
急に込み上げる訳の解らない想いが糸を切った様に、ポロポロと涙を溢れたさせた