君が好きになるまで、好きでいていいですか?

弾ませた声で嬉しそうにそう話す山吹薫


もう少しで、後藤にちゃんと触れた上で話ができたのに


そう思いながら目の前に並ぶ二人を見れば、彼女の手が後藤の手首の袖裾を掴み、それがまるで指を絡ませている様に見えた



……………嫌だっ



万由の押したフロアー階数より下の階数で止まり、扉が開いたと同時に

その空間から逃げ出したくて、エレベーターから足早に降りた


「わっ!」

エレベーターの前に乗り込むつもりだった浅野にぶつかった


「あ、すみませんっ」


バタバタと用事のないフロアーに降りたまま、兎に角エレベーターから離れたかった




「あれ、万由ちゃん…………?」


「……………」


浅野が首を傾げながら、万由の行った方を気にしてエレベーターに乗り込むと、そこに乗っていた二人に目を細めた



「万由ちゃん、降りる階間違ってたんじゃないかなぁ………」

呟きながら低い声をだして、直接後藤に目を向けた


「…………」

万由が降りたフロアーは会議用の空きスペースで、煙草を吸うための喫煙室くらいであまり女性が立ち寄らない


「次の階まで階段で行くつもりじゃないですか? 健康志向なのかも。それとも煙草でも吸いに行くんだったりして………」


しれっとそう言う薫に、浅野が溜め息をつく

< 270 / 333 >

この作品をシェア

pagetop