君が好きになるまで、好きでいていいですか?
「ヨシ、最近忙しいの?」
エレベーターに乗り込んだ浅野が、階数ボタン近くに立つ後藤に話しかける
「…………ええ、おかげさまで」
「ふぅん……」
素っ気なく答えた後藤から視線を外し、薫に移した
「薫………相変わらずやりたい放題だな。少しは人の迷惑考えられないのか?」
「…………はぁっ?!」
一瞬にして顔を歪ませ、浅野を睨む山吹薫
「父親の採算の取れない仕事に、いい加減ヨシのプライベートまで巻き込むな」
「……………っ」
「ヨシ、俺とだったら話す時間とれるだろ。相談があるからそのうち時間取ってくれよ」
「………相談?」
言うことだけ言って、次の階で降りて行った浅野
残ったのは………プリプリと腹を立てる薫と、話しの欠けた万由との会話の余韻
「……………」
薫から掴まれた袖裾の手をゆっくりと払い、常務のところには後で顔を出すからと、薫に断りをいれて、次の階で降りた後藤
「佳樹さんっ」
一緒に降りようとする薫に手のひらを向けてエレベーターの中に留めた
「ムロイの新規受注の話は、君と室井の副社長とのお見合いの結果には関係無くなったんですから、相談されても俺では答えをだせません」
あの3日間の出張の間、確かにムロイ工業の現段階にある無理な受注の現状のプレゼンと話し合いをしに行った。
それと同時に向こうから懇願された山吹常務の娘であり優秀な秘書の薫と、ムロイ工業の社長の息子であり副社長をしている
室井透(28歳)とのお見合いだった。