君が好きになるまで、好きでいていいですか?

「そうですか………ありがとうございました」

席に座る事もなく、一礼して身体を翻した


「ちょっと万由ちゃん、でもっ……………」


何かを言いかけた浅野に聞く耳を持たず、その場を後にした





どうしよう…………このまま後藤さんの家まで押し掛けていいんだろうか

でも、山吹さんと一緒にいたけと、部屋にまで一緒いるとは限らない………



「……………行こう」

たとえ、山吹さんと一緒だろうとちゃんと自分の事だけでも話をしないと


そう奮い立たせながらも、心の中はまち針が刺さる場所もないほど痛い


時刻は既に21時半を回っていた

部屋の前まで来たものの、ベルを押す勇気がなかなか出ない


「はぁ……………っ」


 ガタッ、コツコツ…………


万由の前を、マンションの他の住人が、シロジロと不審な目で見ながら通り過ぎて行く

そりゃそうだ、いつまでもドアの前でウロウロしているんだから


通り過ぎたその人が、もう一度振り向いたから、慌てて思わずベルに手を伸ばした


 ピンポーン

ああ………押してしまった


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