mariage~酒と肴、それから恋~
頭の上ではっきりとそう聞こえて、胸の奥が勝手にカッと熱くなる。


ほ、惚れ…?!え?じゅんくんが?え?誰に?私?

どゆこと?!

思考だけじゃなくて、息まで止まった。


「公私きっちり分けらんなくて。俺、不器用なんで」


離さないと言わんばかりの腕の強さ。

見上げれば、いつもの営業スマイルとは全く違うじゅんくんがいた。

仕事モードじゃない普通の男の人みたいな。


それから、じゅんくんは、男の左手の薬指に視線を走らせ、挑発的に言った。

「女を口説きたかったら、それ外してからにしろよ」


左手の薬指。結婚指輪。

そう、この男は既婚者だ。

それも、私と出会う前から……――


…――知らなかった。

付き合い始めた当初は、この男が既婚者だったなんて。

あの頃は、指輪もしてなかったし(遊ぶときに外してただけなのかもしれない)。


知ったときにはもう別れるなんて考えられなかった。

好きで好きで、どうしようもなかった。


でも、くっついたり離れたりダラダラ5年も付き合ってた間中、幸せを感じる以上にずっと辛かった。
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