逃げ惑う恋心(短編集)
友ちゃんと話ができたのは、ホテルに戻ってからだった。
公演の疲れと打ち上げでの飲酒も相まって眠たそうな友ちゃんは、まず千穂ちゃんからのメールを見せてくれた。
大阪公演千秋楽おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。怪我もなく公演を終えたことを嬉しく思います。福岡公演の無事と、そしてますますのご活躍をお祈りしています。
「なにこれ。これほんとに千穂ちゃんから?」
「登録してる名前が同じの別人じゃなきゃ本人だよ」
送信者。春のいとこ。
千穂ちゃんからのメールは、まるで定型文のような、事務的な内容だった。千穂ちゃんからのメールなのに、千穂ちゃんの言葉ではないように感じた。
ていうか友ちゃん、千穂ちゃんのこと「春のいとこ」で登録しているんだ……。
「で、こんなメールなら連絡してこなくていいって言った。ら、役者だ一般人だってごちゃごちゃ言い出したから、こんなつまんなくてくだらないやつだって思わなかったって言ったら、泣いた」
「……」
一概に、友ちゃんが悪いとは言えない。でも、千穂ちゃんの擁護も友ちゃんの擁護も、おれにはできなかった。
「とにかく友ちゃん、東京帰ったら千穂ちゃんに会いに行こう。ね」
「いや気まじぃだろ完全に」
「気まずくたってちゃんと話さなきゃ仲直りもできないでしょ」
友ちゃんは答えてくれなかった。