逃げ惑う恋心(短編集)
「なんかさあ」
胸を撫でまわしていると、大ちゃんが呟くように言った。
「男が女の子の胸を触るとセクハラなのに、女の子が男の胸を触ってもそれはただのスキンシップなんだよね」
「確かに」
胸や二の腕くらいならスキンシップで許されるだろう。そう考えたらちょっと不公平なのかもしれない。
まあでもさすがに女の子も、男性の下半身を触ったらセクハラになってしまうだろうけど。
「あ、でも人によるかも。例えば大ちゃんの知ってるひとで言うと、良くんとか春泉くんとかならセーフっぽい。胸とかお尻を触ってきてもいやらしさがない」
「ああ、良ちゃんはド天然だし、春は見た目がふわふわしてるからね」
「でも柳瀬さんとか一之瀬さん、大ちゃんはアウトっぽい」
「否定できない」
「かと言って、大ちゃんがド天然だったりふわふわ小悪魔系だったら気色悪いし」
「おいおい、失礼だな」
「じゃあちょっとやってみてよ、ド天然大ちゃんを」
「あれぇ、おにぎりに梅干し入れたと思ったら、間違えて消しゴム入れちゃったぁ、うっかりー」
「……」
「おいおい、ノーコメントはやめてくれよ」
「せめて梅干しっぽいものにしてよ、消しゴムだとネタにしか見えない……」
「赤血球とか?」
「入れないでしょ」
「朱肉とか?」
「本気で間違えて朱肉入れちゃったなら、眼科に行くことをおすすめするね」
そんなくだらないやり取りの間にもシャッター音が聞こえていて。
多分今日ブログに載せるはずだったわたしの写真を撮っているんだろうけど、稽古風景じゃなくくだらない雑談風景を載せるつもりかしら……。
せめて真面目な話をしている写真を載せてもらいたいんだけど……。
でも撮ったそばからスタッフさんたちが爆笑しているから、ブログ用の写真としてはだめなんだと思う。
写真自体は、真面目な顔で話し込む大ちゃんとわたしのツーショットなんだけど、これが胸やセクハラやド天然大ちゃんの話をしていると思うとやたらおかしい。