逃げ惑う恋心(短編集)




「もう普通にふたり並んで撮ったらいいんじゃないですか?」

 大ちゃんがそう切り出して、思わず見上げる。
 ふたり並んで? わたしの紹介記事で、大ちゃんと正面向いてカメラ目線の写真を使うっておかしくない? 昨日までは普通に稽古写真だったのに、それでいいのかしら。

「じゃあもうそれでいいや。大川くん歌詠ちゃん並んで並んで」

「なんかなげやりじゃないですか?」

 いいからいいから、と隣で笑う大ちゃんは、やっぱり大口を開けていて。つられてわたしも笑った。

 このときなぜだか漠然と、もし大ちゃんと付き合ったら楽しいんだろうなあって思った。

 大きな口でもりもりごはんを食べて、お酒を飲んで、なんでもない雑談をして。大ちゃんはいつも、楽しそうに目を細めて笑って。なんて。ないない。


 笑顔をピースしている大ちゃんとわたしの写真を見て、スタッフさんたちは「旅行写真みたいだね」とまた爆笑した。
 確かにちょうど背後にあった大道具も相まって、旅行の記念写真っぽい。これならさっきの真面目な顔でくだらない話をしている写真のほうがいいと、結局ボツになった。
 この長時間のぐだぐだは何だったのか。


 もう稽古場にはわたしたちしか残っていなくて、ため息をついて立ち上がる。

 ため息をついたけれど、顔の筋肉が緩んでいた。なんだかおかしなひとときだった。

「わたしもう帰りますよ」

「あ、待って俺も。一緒に帰ろ」

 パソコン前で携帯片手に何かやっていた大ちゃんも立ち上がって、小走りでやってくる。

 まあ一緒に帰ると言っても自宅の方向が逆だから一緒なのは駅までだけれど。



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